ー空中スケッチ + FIFTIES 公式サイトー

映画『新聞記者』を観る

映画『新聞記者』2019年6月公開

映画『新聞記者』を観る

 

先日、やっと観ることができたこの映画、近年稀な傑作でした。

今週で打ち切られるとか。満員御礼の劇場も出ているようですが、人が入らないということで打ち切りなのでしょうか?いずれにせよ、近頃ではめったに観ることのできない力強い作品でした。

あちこちですでに語られているように、ストーリーは現政権下における様々な政治スキャンダルとその本質に迫っています。勿論、相変わらず、本質に迫ろうとすると途端にネット上には「トンデモ」な荒唐無稽な憶測の連続で呆れるなどという批判が必ず登場しますが、なかなかどうして、現実に起こった事件や政治的案件に対する素晴らしく説得力のある解釈だと思います。

確かにフィクション(作り事)ですから、真実ではないと言われればその通りです。ですが、現在進行形の出来事を安易に解決させず迫るその制作態度は称賛に値すると思います。米映画の「ペンタゴン・ペーパーズ」等と比較される向きもありますが、それらはすでに一定の結果が出ている出来事の顛末を扱っているのだから、この作品と比べることはそもそもできません。この作品の価値は、誰もがうすうす疑っていても、あえて口に出せずにいる現在進行形の「王様の耳はロバの耳」を扱っているところにあるのだから。

しかしながら、ジャーナリストやメディアは事件や出来事を取材して、明確にすべきであって、映画などというフィクション(作り事)のエンターテインメントの媒体に安易に寄るのは、自殺行為だなどと評する人も出てくる始末。
たとえば、映画のような媒体によって現実の出来事を想像させ、解釈させ、判断させることを、現在の「民主主義」すなわちチョムスキー言うところの「観客民主主義」はプロパガンダとしては大いに利用はするが、批判や批評の材料としては潰す傾向がある。これは、この国でも勿論、多くの国で共通しています。
だからこそ、不明確で分かりにくい現在の出来事だからこそ思考の材料を映画は提供すべきなのだと思う。昨年の「万引き家族」もそうした作品のひとつでした。娯楽で結構。娯楽作品を観て、いや娯楽作品だからこそ、その映画の中で語られている事柄の本質の重さと可能性を感じることができればいい。もしもできないとしたら、よほど呑気に今を過ごしているのだろうな、と僕は思う。

なしくずし的に悪化しているこの国の政治と経済状況は、本当の問題に触れることができないように進行している。
目を覚ますには、こんな映画をあえて観てみる必要があるのではないかな。
もうすぐ終わってしまうのかもしれないが、ぜひ多くの人に観てもらいたい。そして、ぜひDVD化やBlu-Ray化を希望します。

主役の女性記者を演じるシム・ウンギョンさん。彼女の演技は「怪しい彼女」「サニー」はもとより「ソウル・ステーション・パンデミック」の声優としての仕事、そして「新感染」のゾンビ役と、これまで数多の作品を見せていただいていますが、今回はそれらの作品からは想像もできないほどの静かで激しい内省的な演技に、この俳優以外にはこの役はできなかっただろうと改めて思いしらされました。
そして、もうひとりの主役である内閣情報調査室の若手を演じる松坂桃李さんも、いわゆるイケメン枠を超えた深く葛藤を抱えた演技を見せてくれました。参加された俳優一人一人の意識的な作品への思いが、この作品を特別のモノにしていると感じました。

若い監督と老練なプロデューサー。十分に錬られた脚本と演出、そして静かに燃える演技がこの映画を稀に見る傑作に仕立て上げています。
この作品をこの時期に観ることができて僕は嬉しかった。
ありがとう!!

P.S.
映画の中でも流れていた貴重な対談の動画もアップしておきます。御覧ください。
パヨクだとかネトウヨだとか、そんなことはどうでもいい。問題の本質を見極めたいと思います。

 

コメントは受け付けていません。